退職金の財産分与
退職金は、給与の後払い的な性格があり、結婚生活において夫婦が協力して得た財産ですから、財産分与の対象となり得ます。
退職金がすでに支払われている場合
退職金が既に支払われている場合には、「夫婦の共有財産」とみなされるケースが多いです。 その場合、勤務年数のうち、実質的な婚姻期間(同居期間)の割合によって算定し、配偶者が退職金の形成にどれだけ貢献をしたか(寄与度)を考慮して決定することになります。 ただし、退職金を受領したのがだいぶ前で、離婚時にすでに無くなってしまっているような場合には、財産分与の対象となる財産がすでに存在しないとされる可能性が高いです。
退職金がまだ支払われていない場合
退職金がまだ支払われていない場合、勤務先の倒産や解雇、定年後の再雇用、その他、様々な要素によって、支給されるかどうかが不確実なものとなります。 そのため、判例では退職金を受け取る「蓋然性が高い場合」に限って、将来支給される予定の退職金も財産分与の対象として認定しています。
考慮される要素としては、以下のようなものがあります。 ・退職金を支払う旨の規定があること ・勤務先の経営状況が良好であること ・長期間にわたって勤務を継続していたこと ・退職金支給時点までの勤務期間が短いこと
計算方法
分割対象となる退職金の計算方法については、判例上は、いくつかの方法があります。
■退職擬制期間基準方式
夫婦共有財産の清算という財産分与の性質から、別居時に自己都合で退職した場合の退職金相当額をもとに算定する方法です。 支払時期については、離婚時に支払う「離婚時分与」と、将来、退職金が支給されたときとする「給付時分与」があります。
■中間利息控除方式
離婚時に中途退職したと仮定して計算した場合では、受給できる退職金が少なくなり、分与を受ける側に不利益が生じるため、定年退職時に受給する予定の退職金から寄与度を考慮して分与額を算定し、中間利息を控除して、現在給付するという方法です。
■計算式
婚姻期間中の同居期間 退職金額×――――――――――×寄与度=財産分与される金額 勤続期間
退職金額のうち、勤続期間から婚姻前と別居の期間を控除した部分が対象となります。 寄与度は原則として50%です。 仮に夫が働いて妻が専業主婦の場合でも、法律実務上は、妻が子どもを養育し、家事を行ったからこそ、夫は仕事に専念して給与や退職金を貰えたと解釈します。 ただし、夫婦一方の介護やホーム入所、入院、服役など、特別な事情によって、寄与度が増減することがあります。
■中間利息の控除
中間利息控除とは、将来支給されるものを、今受け取ることで生じる利益を、利息分として先引くことをいいます。 現在給付とする場合、本来受け取れる時期までの期間分の利息相当の利益が生じてしまうことになるため、その分を控除して現在価額を算出するということです。
中間利息の法定利率は、 2020年3月末日までは、中間利息は民事法定利率である年5%となっておりました。 2020年4月1日以降は年3%に変更になりました。
ライプニッツ計算方法による中間利息控除の計算式は、以下のとおりです。
現在価額=将来支給される額/(1+利率)^支給されるまでの期間
■ライプニッツ係数
ライプニッツ係数(年3%の場合) | |
---|---|
年数 | ライプニッツ係数 |
1 | 0.9708 |
2 | 0.9425 |
3 | 0.9151 |
4 | 0.8884 |
5 | 0.8626 |
6 | 0.8374 |
7 | 0.813 |
8 | 0.7894 |
9 | 0.7664 |
10 | 0.744 |
11 | 0.7224 |
12 | 0.7013 |
13 | 0.6809 |
14 | 0.6611 |
15 | 0.6418 |
16 | 0.6231 |
17 | 0.605 |
18 | 0.5873 |
19 | 0.5702 |
20 | 0.5536 |
21 | 0.5375 |
22 | 0.5218 |
23 | 0.5066 |
24 | 0.4919 |
25 | 0.4776 |
26 | 0.4636 |
27 | 0.4501 |
28 | 0.437 |
29 | 0.4243 |
30 | 0.4119 |
31 | 0.3999 |
32 | 0.3883 |
33 | 0.377 |
34 | 0.366 |
35 | 0.3553 |
36 | 0.345 |
37 | 0.3349 |
38 | 0.3252 |
39 | 0.3157 |
40 | 0.3065 |
公正証書の記載に関して
公正証書によって退職金も強制執行の対象とするためには、日付や金額が特定された記載にする必要があります。 そのため、退職金支給規定などで退職金の計算方法を確認するか、もしくは退職金予定額証明書を交付してもらうなど出来ると良いと思います。 また、定年となる日や退職金の支給日なども確認しておくと良いです。
退職金支給規定の例 第●条 (支払いの時期及び方法) 退職金は、退職又は解雇の日から●●日以内に、通貨で直接、 支給対象者(退職または解雇となった労働者、もしくは死亡に よる退職の場合はその遺族)に支払う。 第●条 (支払いの時期及び方法) 退職金は、定年退職の場合は退職の日から●●日以内に、中途 退職又は解雇の場合は、その日から●●日以内に、支給対象者 (退職または解雇となった労働者、もしくは死亡による退職の 場合はその遺族)の指定する金融機関への振込送金の方法によ り支払う。 第●条 (定年等) 労働者の定年は、満●●歳とし、定年に達した日の属する月の 末日をもって退職とする。 第●条 (定年等) 労働者の定年は満●●歳とし、定年の年齢に達した日の直後の 賃金締切日をもって退職とする。