公正証書のメリット

公正証書の効力

「公正証書の効力」には、主として、「執行力」「証拠能力」「安全性」「心理的圧力」の4つがあります。

執行力

通常の離婚協議書や契約書ですと、通常、訴訟を起こして勝訴判決を取らなければ強制執行(給料や預金などの財産の差押)を行うことが出来ません。
公正証書であれば、養育費・慰謝料・財産分与などの支払いが滞った場合、「強制執行認諾条項」が記載されていれば、直ちに強制執行(給料や預金などの財産の差押)を行うことが可能です。

民事執行法22条(債務名義)
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
(~中略~)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
(~後略~)


証拠能力
公正証書は、公証人が作成する文書です。
公証人は、裁判官などを長年勤めた者の中から法務大臣に認定を受けた法律家であり、準公務員とされています。
そのため、公証人が作成した公正証書は、訴訟上においても、真性に成立した公文書と推定されます(形式的証拠力)

また、公正証書は、公証人が当事者の身分証明証で身元確認し、文面内容についても真実性や法令上の不備や違法性がないかを確認して作成しますので、その記載内容に対しても高い信頼性があります(実質的証拠力)。

よって、後から「署名した覚えがない」「そんな約束をしていない」「無理やり作らされた」「改ざんされている」等という反論をされても、ほとんどの場合、そのまま記載された内容が認められます。

民事訴訟法228条(文書の成立)
文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
(~後略~)


安全性

作成された公正証書は原本が公証役場で20年間保管されます。
※実際には20年が経過しても破棄されることはなく、そのまま保管されていますし、支払期間が20年を超える場合は、当然、その期間保存することになっています。

当事者に交付される「謄本」は、仮に紛失・盗難・破損などした場合でも、再発行してもらうことが出来ます。

公証人法施行規則第27条
公証人は、書類及び帳簿を、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる期間保存しなければならない。ただし、履行につき確定期限のある債務又は存続期間の定めのある権利義務に関する法律行為につき作成した証書の原本については、その期限の到来又はその期間の満了の翌年から10年を経過したときは、この限りでない。
一 証書の原本、証書原簿、公証人の保存する私署証書及び定款、認証簿(第3号に掲げるものを除く。)、信託表示簿 20年
(~中略~)
3 第1項の書類は、保存期間の満了した後でも特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間保存しなければならない。
(~後略~)


心理的圧力

公正証書は証拠能力や安全性に優れ、執行力を有していますので、債務者に心理的なプレッシャーを与えることになります。
そのため、支払いなどの約束を守ってくれる履行率が高く、安心です。


公正証書のメリット"

公正証書のメリットは以下のとおりです。

メリット・デメリット

公正証書のメリット 公正証書のデメリット
支払ない場合に裁判を得ずに強制執行が出来る 公証人手数料と必要書類の用意が必要
紛失や盗難、破損、改ざんの恐れがない 作成するまでに一定の日数を要する
強力な心理的圧力をかけられる 公証役場に平日何度か足を運ぶ必要がある。
公証役場で原本が20年間保管してもらえる

内容を変更したい場合、一から作成し直す必要がある
合意の存在や内容が明確で争いになりにくい 公証人の予定に合わせて時間を取る必要がある

デメリットの多くは、行政書士や弁護士などの法律文書の専門家に依頼をすることで解決できます。

公証役場の公証人は、伝えた情報をもとに、法的な有効・無効の確認をして、法的に正確な記載をした文書を作成してくれますが、この内容であれば本来はこの条項を入れた方が良い等という点についての助言や提案はしてくれません。

行政書士や弁護士であれば、ご希望される条件内容を精査確認して、不備や漏れが無いように、迅速かつ正確に文面に仕上げられますので、時間や労力の負担や無駄を省くことが出来ます。

また、公証人との連絡や協議調整、公証役場での作成手続き、などを全て代理することが出来ますので、ご夫婦双方とも一度も公証役場に足を運ぶ必要もありません。


差押(強制執行)

公正証書による強制執行(差押)について

強制執行認諾条項」が記載された公正証書であれば、金銭債務の支払いが滞った場合に、訴訟を起こさずに、相手の給与や預金、その他の財産に対する強制執行(差押)をすることができます。


強制執行(差押)の対象

強制執行には、主要なものとして次の3種類があります。


1 債権 銀行が預かっている預金や勤務先が支払う給与など、債務者が有している権利
2 動産 不動産以外の換価価値のある物品(電化製品や貴金属、骨董品、など)
3 不動産 不動産 土地・建物

※一番多く利用されているのは「給与差押」です。
給与のような定期的な給付金に対しては、一度の申立で、自動的に継続的な差押が得られます。


 

強制執行申立の必要書類

強制執行の申立をする場合に必要となる書類は以下のとおりです。


【公証役場】 【地方裁判所】
●印鑑登録証明書及び実印
●戸籍謄本
●強制執行認諾条項付き公正証書正本
●債権差押命令申立書
 当事者目録
 請求債権目録
 差押債権目録
 第三債務者の陳述催告
●執行文を付与された公正証書正本
●債務名義の送達証明書
●資格証明書
 ※給与差押⇒会社の登記簿謄本
 ※口座差押⇒銀行の登記簿謄本
○当事者の現住所が変更されている場合には住民票等の住所異動を証明する書類
○苗字の変更などがある場合には、承継執行文の付与
○離婚が成立したことを証明するための事実到来執行文の付与(東京地裁の場合など)
○住民票(住所が異動している場合)
○戸籍謄本(苗字が変更になっている場合)

強制執行申立に必要となる費用

強制執行の申立をする場合に必要となる費用は以下のとおりです。


【公証役場】 【地方裁判所】
●送達手数料    1,400円
●送達する謄本代  2,000円~3,000円
 (枚数により異なります)
●送料郵便代実費  1,130円~1,500円程度
 (重量により異なります)
●送達証明書    250円
●執行文付与手数料 1,700円
※承継執行文付与手数料 1,700円
 (氏の変更などがある場合)
※事実到来執行文付与手数料 1,700円
 (申し立てる裁判所によっては必要)
(給与差押や口座差押の場合)
●申立手数料 4,000円
 (収入印紙で申立書に貼付)
●郵便切手 2,468円分

強制執行申立に関する注意点

強制執行の申立をする場合、差し押さえる財産を特定する必要があります。
差し押さえる財産を特定することが出来ないと、強制執行の申立をすることが出来ません。

※給与差押であれば、その勤務先の所在地・勤務先名
※口座差押であれば、その金融機関名と支店名・所在地
※不動産であれば、その所在とその建物や土地の具体的な内容


給与差押について

口座や不動産の差押は、その効果が1回限りですが、給与差押については、退職するまで毎月継続的な差押となります。
差押可能な範囲は、給与支給額から通勤手当や公租公課(税金や社会保険料など)を控除した残額の、原則として4分の1までです。
ただし養育費などの扶養債権については、特別に2分の1(2分の1が33万円を超える場合は33万円を除いた全額)となっています。


なお、給与差押をする場合、特に注意が必要です。
給与差押の申立をすると債権差押命令という文書が裁判所から勤務先に届きます。
具体的な金額や内容などが記載されています。
相手が勤務先から呼び出されて事情を聞かれることが大半だと思います。
そうなると、勤務先に居づらくなって自主的に退職してしまったり、もしくは勤務先から依願退職を促される場合もあります。
そうなれば執行不能となるか、もしくは一部のみしか回収出来ず、その余の回収が極めて困難になることも予想されます。


また、大抵の場合、そもそも勤務先に知られたり迷惑を掛けることは、何よりも避けたいのが普通です。
よって、支払えない特別な事情が生じてしまった可能性もあります。
そのような場合、無理にいきなり差押をするより前に、手紙で事情を確認したり、場合によっては支払条件の見直しなどをすることによって、安定した、継続支払を確保できることもあります。